小説

『銀河モノレールの海』梅屋啓(『銀河鉄道の夜』)

 俺の目の前に現れたのは幼馴染の晴樹だった。同じ銀杏島で生まれて、島に一つしかない小中一貫の学校で過ごした晴樹。一クラス二十人に満たない小さな学校で育った俺たちは小さな頃からよく遊んだ仲だった。だが、中学を卒業して別々の高校に進学してからは会うこともなくなった。お互い今年で二十一歳になる。約六年ぶりの再会だったがすぐに晴樹だとわかった。長袖のシャツを着ていてもわかる華奢な体格。車窓から差し込む光を全て反射しそうな白い肌。晴樹はくりっとした大きな目で、シートに座ったまま驚きを隠せない俺を見下ろしていた。
「君も乗ってたんだ」
「あ、ああ。偶然だな」
「そう思う?あ、隣座っていいかな」
 晴樹は嬉しそうに笑いながら俺の隣のシートに座ろうとして動きを止めた。
「あ。なんか変だよね。誰も乗ってない車両なのに隣同士で座るなんて。ごめんごめん」
 晴樹はそう言うと俺の前の座席を器用にくるりと反転させて、俺と向かい合って座った。それから晴樹はズボンのポケットから高級そうな革でできた二つ折りの定期入れを取り出すと、丁寧に開いて俺に見せた。中に入っていたのは艶のない銀色のカードで『銀河モノレールフリーパス』と印字されていた。
「どう?羨ましいでしょう」
 晴樹はさっきよりも嬉しそうな顔で自慢げに俺の顔を見た。
「なんでそんなの持ってんだよ」
「内緒。ちょっとした特典みたいなものかな。僕この列車好きでさ。よく乗ってるんだ。それで、本土から帰ってくる知り合いにはけっこう遭遇するってわけ」
 晴樹はフリーパスの入った定期入れを大切そうにポケットへしまいこんで、車窓の外へ顔を向けた。俺もつられてそちらへ視線を送る。遠く離れたところに漁船がきれいな隊列を組んで浮かんでいた。
「オリオン座」
 ふいに晴樹が小さく呟いた。俺が晴樹に視線を戻すと、晴樹もそれに気づいて漁船を指さした。
「あそこにいる船の並び方。オリオン座と一緒じゃない?あの三つ並んでる辺りがさ」
「何急に乙女っぽいこと言ってんだよ」

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