ペンを置いて手を組むと、面接官は詩織を見つめる。
「仮にあなたがこの会社で働くとして、この会社があなたのしたいことをしていないとする。あなたのやってきたことと、この会社の活動が違う。そうだとしても、あなたがそれを始められるかもしれない。始めてみればいい。そうは考えられませんか? それが会社にとって新しい可能性をつくることもあるんです。出来る、出来ないは環境が決めることじゃない。可能性は自分でつくれるんです。もちろん、最初からすぐ出来るわけじゃないですけどね」
時計をちらっと確認して、隣の面接官が視線を送る。答えるように頷くと、その面接官は「頑張って」と目を細めた。
「もう、大丈夫だから」
はぁっと伸びをしながら、詩織はソファにいる岳志を見る。早上がりかと思っていたら、詩織が帰ってきてから岳志はまた仕事に戻っているようだった。
「吹っ切れたっていうか、焦ってもしょうがないし。自分のしたいこと考えて、また就活やり直すよ。お金じゃなくってさ」
「そうか」
頭の後ろで手を組んで、岳志はぼぉっとテレビを眺めている。
「今年がダメだったら、お父さんが貯めた卒業祝いでも使って、しばらく旅行でもしようかな」
ジャケットを椅子の背に掛けると、詩織は冷蔵庫を開ける。いつもの場所に、今日もプリンが置かれている。
「そのほうがよっぽど為になる就活かもな」
テレビを消す。かかってきた電話に指示を出し、「これから戻る」と伝えると、岳志はよしっと立ち上がりタオルを首に巻く。
「ありがと」
手に握ったプリンを見つめて詩織は言った。