小説

『合格!』山本康仁(『ネズミの嫁入り』)

「お父さん、ありがとう」
「えっ?」
 携帯をポケットに押し込んで、岳志がそのまま背中を向けて立ち止まる。
「その、ありがとう」
「えっ? なに? 聞こえないぞ」
 へへっと岳志が笑う。
「サイテー」
 詩織が言い返す。
「それも聞こえないぞ」
「サイテー」
 もう一度言い放って、詩織もははっと声を上げた。

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