テーブルの上に見慣れない封筒が置かれていたのは、翌日に面接を控えた夜のことだった。差出人も書かれていない真っ白な封筒。テレビを眺め「へへっ」と笑う岳志を詩織は念のため、睨む。そう言えば最近、岳志がやたら家にいることが多いな、なんて思いながら取り出すと、入っていたのは詩織名義の口座通帳とカードだった。
「何これ?」
そ知らぬ顔をする岳志に詩織が尋ねる。「ああ、いや」とどもりながら、岳志がちらっと詩織のほうへ視線を向けた。
「ほら、この前・・・」
「えっ?」
喉につかえたような岳志の言葉に、詩織が大きな声を返す。帰ってきたばかりなのだろうか。作業着姿のまま、手にはビールさえ持っていない。
「本当はさ、大学卒業するときにさりげなく渡して、格好いい父親を見せようと思ってたんだけど。貧乏はもう嫌だって言うしさ」
通帳を開くと、毎月プラスになっていく数字が十年以上前から並んでいる。
「ひとり暮らし。大学卒業したらさすがにさせてやらないとなぁ。いつまでも父親と一緒ってのは、ほら、さすがに嫌だろうしさ。一年分くらいの家賃と生活費にはなるだろ。都会の高層マンションは無理だけど」
そう言って岳志が、CMに入った画面に視線を戻す。詩織から顔を隠すように、こめかみの辺りをぽりぽり掻いた。
「そんな、突然こんなもの渡されたって・・・」
毎月必ず同じ日に同じ金額が足されていく通帳を見て、詩織はなんだか岳志が自分に対しても慰謝料を払い続けていたような感じがした。
「だったら、卒業まで隠しておけば良かったのに・・・」
開けば余計な言葉しか出てこない。役に立たない唇を歯でぎゅっとしながら、詩織は岳志をちらっと見た。
「好きなことしろよ」
岳志が声だけ詩織に向ける。