『この度はご縁がなかったということで』
もういったい何度フラれたことだろう。フラれるたびに「次がある」、そう自分に言い聞かせてやってきた。椅子にドカッと腰を掛け、詩織は携帯をつかむ。左手にはプリン。開け口のビニールを前歯で挟み、びりびりと剥ぎ取る。
「日曜、空いてる?」
ラインを送る。
「オッケー」
すぐ返事が届く。こんなとき頼るのは、いつも姉だった。
親が離婚し、それぞれ別々に引き取られても二人はよく連絡し合った。むしろ離婚してからのほうが、詩織と裕子は仲が良くなった気もする。エリート公務員と再婚した母と違い、マイペースに父子家庭を続ける岳志と詩織を心配して、裕子が手紙を送ってきたのが始まりだった。
「お姉ちゃんはいいよねぇ、お母さんのほうで」
二杯目のアイスコーヒーにストローを差しながら詩織がぼやく。静けさを取り戻す二時過ぎのファミレスで、詩織はまた「はぁ」とため息をついた。裕子は黙って履歴書や詩織が作った面接の受け答え例集に目を通している。
「私立の高校で、塾にも行って。一流大学に一流企業。わたしも私立、行ってればなぁ」
「詩織、勉強嫌いだったじゃん」
用紙を見つめたまま裕子がつぶやく。
「そうだけどさぁ。今となっては思うわけよ。無理にでも勉強させられる環境だったら良かったなって。それに塾だって、行こうと思ってもお父さん、どうせお金なかったんだろうし。なのに『行きたい』って言うのは酷でしょ? わたしだって気を遣ってんだよ、貧しい家庭事情ってやつに」
「お金はあったんじゃない? 詩織に行く気がなかっただけで」
「あったらお小遣いくらいくれてるでしょ。部活の遠征費だって、自分のバイトから出してたんだよ」