小説

『幸福の青いカラス』エルディ(『青い鳥』)

 とはいえ題名くらい事前に確認しておけばこんなことにはならなかったというのは確かでしょう。なぜって映画の題名は、すばり『鳥』。わかっていれば見ませんでした。またしても確認を怠ったことが悲劇を招くなんて。

 ただ言わせてもらえば、名作という触れこみで、鳥の大群が人間を襲う映画を想像する人がいますでしょうか。十二年も生きてますがこんな映画初めてです。すべてとは言いません。わたしの非も認めたうえで、やはり内容をふせて紹介したお父さんが悪いとは言えないでしょうか。気を利かせたつもりでしょうけど。でもこんな怖い映画を小学六年生の女子に見せるにあたって、事前になんの説明もないなんてデリカシーがないと思いませんか。それに喜々とした表情ですすめるのです。笑えるようなものか何かと思うじゃありませんか。

 それにわたしが悩んでいることが伝わっていないのでしょうか。自分で言うのも変ですが、最近のわたしの顔からは悩んでいることがありありと見てとれるはずです。ましてや家族だというのに。

 でも悩んでいることを察することができたとしても、鳥に関することだなんて見当のつく人はまあいないでしょうから、お父さんを責めるわけにはいかないのはわかっています。とくにお父さんは鈍感ですから、わたしの顔に悩みを書いておいても気づかないかもしれません。

 しかし何でしょう。やはり根拠がなくても、悪いのは父です、と言いたくて仕方ないのです。なぜなのか、自分でもわかりません。頭じゃなくて体がそうしろって命令してくるものですから、自分でもどうにもならないのです。

 この「なんでもかんでもお父さんのせい症候群」は一体何なのでしょう。この間だって、遅刻しそうになった原因は、お父さんのヒゲのせいということにわたしの中では決着がつきました。

 朝の洗面所をヒゲそりで独占してしまうのです。お母さんの意見では寝ぼうしたわたしが悪いそうです。確かにあの日は寝ぼうしてしまったのですが、効率よく洗面所を使えていれば走って登校することにならなかったと思います。つまり、だから、お父さんのヒゲが濃すぎるのがいけないのです。かわいそうなことに、最近ではお兄ちゃんまでヒゲそりの一員になってしまいました。あの優しくっておもしろかったお兄ちゃんがです。

1 2 3 4 5 6 7 8 9