小説

『幸福の青いカラス』エルディ(『青い鳥』)

 もちろん断固抵抗しました。
 女の子の友だちも加勢してくれたおかげで、それがニックネームとして定着することはありませんでした。だからといって、恥ずかしさがなくなるわけではもちろんありません。教室の後ろにわたしの不幸せな「青い烏」が掲示されているかぎり振り返ることはできないのです。

 先生はいつまで掲示するつもりなのでしょうか。まさか卒業までそのままなんてことはやめてほしいです。だってあと二カ月はあります。楽しかった六年間が台無しです。汚点です。一本線をつける代わりに汚点をつけてしまったのです。大げさなんて言わないでください。終わり悪ければすべて悪し、ではありませんか?

 背筋がぞっとします。
 風が吹いたり、扉をいきおいよく開け閉めするたび、教室の後ろからカサカサササと鳥たちのさえずりが聞こえるのです。半紙がこすれあっているだけなのですけど、わたしには青い鳥たちが「青い烏」を、つまりはわたしをあざけり笑っているように聞こえるのです。しまいには鳥も烏も飛び出してきてくちばしで背中を突いてくるのじゃないかと思ってしまうのです。振り返ったらわたしの目を突いてくるでしょう。

 確かに考えすぎなのかもしれません。
 でもあんな映画を見てしまった以上、わたしにはどうしようもないのです。青い鳥は汚点をもたらすだけでなく、恐怖をもたらすものにまで成長してしまったのです。

 この間のことです。お父さんから映画を見ようと誘われました。名作だそうです。映画好きのお父さんが、教育のためにも見ておく必要があると熱っぽく言うもので誘われるがままに見ることにしました。それにお父さんの映画のおすすめはたいてい信用できるのです。

 しかしそれが安易でした。
 なんと鳥の映画なのです。感動ものならまだしも、鳥が人間を襲ってくるという内容です。カモメやらカラスやらが集団で大人や子どもを襲い、家に避難しても窓ガラスも扉も突き破ってくるのです。お父さんはわたしの青い鳥の悩みなど知る由もないのですからしょうがないとはいえ、このタイミングでこの映画って、お父さんの空気の読めなさはほんとむかつきます。

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