小説

『幸福の青いカラス』エルディ(『青い鳥』)

 Go!
 習字道具を広げ、墨汁を筆につける。わたしの「青い烏」は一番上の列に張り出されているから、手が届かないのは想定済み。椅子を掲示板のそばまで持っていきます。うわばきを脱ぎ椅子に乗る。手を伸ばす。半紙の下側を留めている画鋲を外します。ところがここで想定外。意外とわたしは背が低かったのです。目測ではしっかり届いていたのですが、半紙の上側まで手が届きません。無情に時間は進んでいきます。背伸びすればなんとか指先は触れます。しかしここで生来の横着が災いをもたらしました。やはりあきらめて踏み台を机にかえる安全策をとるべきだったのに、無理して引っ張ってしまったのです。画鋲はとれず、半紙の角が破けてしまったのです。
 「青い烏」は、上の一つの隅だけで留まっている状態でぶらぶらと下がっております。
 わたしは人生十二年間に横着がどれだけ自分の首をしめてきたかを振り返り、反省モードになろうかというとき、第二の想定外が起きました。

 扉がガラッと開きました。
「お、びっくりしたあ。何してんの? そんなとこ乗って」
 人生はなんて残酷なのでしょう。吉田くんが現れたのです。
「え? いやあー、あのー。これ、そうこれが外れてたから、とめてあげようかなあって思って……。吉田くんこそどうしたの?」
「忘れ物」
 と吉田くんは言って、自分の机から本を取り出しました。サッカー雑誌でした。
「だれにも言うなよ。また先生に怒られちゃうから」
 わたしがうなずくと、吉田くんはとてもさわやかな笑顔をして、それをかばんにしまいました。
「なあそれ、手伝ってやろうか? というかお前じゃ届かないだろ。おれがやってやるよ」
 吉田くんは近くの椅子を持ってきて、わたしの横に並べました。そして椅子に足をかけると一気に立ち上がりました。吉田くんの顔が目の前を下から上へと通過し、わたしはその様にまるで打ち上げ花火を眺めているようにうっとりとなりました。
「これ、お前のじゃん」
「そうなの」

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