「シンデレラ?あれは遊びじゃなくて、いじめだよ」
「ええ、でも、二人のお姉さんたちもシンデレラがいないときにそっと灰をかぶっていました」
「あら、なんでかしら」
「こうすると肌が綺麗になるらしい、って」
「シンデレラの肌が綺麗なのは灰をかぶっているからじゃないんだけどね」
「火傷していました。顔を」
「大馬鹿者だねえ」
魔法使いは自らの額に手を当てる。ブラウニーもあの姉たちは大嫌いだった。何回捕まえられて殺されそうになったことか。ブラウニーは他のネズミより一回り大きい。ネズミ捕りに引っかかるたびに姉たちは大げさに怖がりながら、どこか捕獲を喜んでいるような変な笑みを浮かべていた。
さらに嫌なことを思い出す前に、ブラウニーは慌てて笑顔を作った。
「あとは、人間はどのように子孫を残すのかを実践で学びたい」
「下ネタは減点だよ」
「間違えた。じゃあ、好きな人が家に来たらわざと靴を忘れてもらって、その後行方を捜します!」
「あのね、こんなこと言うとアレだけど、普通に生きていたら靴は忘れようとしても忘れられないからね。片方だけ履いてないとか違和感がすごいから」
「とにかく!なんでも自分で出来るでしょ?罠にかかる心配なく」
期待が込められた口調でブラウニーは言い、抑えきれないように肩を上下させた。
「つまりはそこかね。人間はネズミより自由だから、なったら楽しいと思う」
「すっごく簡単に言うとそうかも!」
魔法使いは、机の上の紙になにごとか書きこんだ。
「じゃあ、二つ目の質問だよ。もしブラウニーさんが人間として生きるとしたら、ネズミのときと比べて寿命がかなり延びます。どのような人生設計を考えていらっしゃいますか?」
「人生設計」
「言いかえれば計画ね」
ブラウニーは、そっと唾を飲み込む。ネズミとして生きてきた今まで、明日のことすら考えたことがなかった。