小説

『魔法使いとネズミの御者』Dice(ぺロー版『シンデレラ』)

 頬を膨らませたブラウニーを見て、魔法使いは、顔をなんとか元に戻す。
「じゃあ、せめて具体的に言ってもらえますかね」
「だって、楽しいでしょう。実際」
 ブラウニーは身振り手振りを交えながら話し始めた。
「人間は舞踏会に行けるし」
「あんた男だからね。シンデレラと違って、踊るときは女性をリードしなきゃいけないんだよ」
「へえ。できるできる」
「この根拠のなさ!」
 魔法使いは羽ペンでメモを取りながら奇声をあげる。ブラウニーは肩を竦めた。
「できますって。後は、本を読んだり」
「本当に思っているのか?あんた、この間あの家の主人の蔵書を食い散らかしただろう」
「うっかりあの部屋でお腹空いてきちゃって。食べ物が他にないんですよね。あの書斎。美味しいので、きっといいことが書いてあるんだと思います」
「味で本の内容を判断するのか」
「じゃあ、本じゃない食べ物を味付けして食べたり」
「……?ああ、あれは料理っていうんだよ。あんたたちは食材本来の味しか知らないからね」
「食べ物じゃなくて、頭の中にある素材を味付けして本を作ったり」
「創作するのかよ!」
「むしろもうある話に味付けする、とか」
「二次創作するのかよ!」
 魔法使いは組んだ腕をテーブルに置いた。
「なんでそんなことを知っていて動機を知らないんだろうね。そんなので創作とか笑われちまうよ」
「大丈夫です。書いたら食べます」
「無駄だし腹を壊すね」
「いや、きっと美味しいですよ」
 途中で自分の指がばらばらに曲がるのに気がついて嬉しくなったブラウニーは、理由を数え上げるたびに両手の指を折った。
「あとは、灰をかぶって遊んだりするのも楽しそうだなあって、戸棚の奥から見ていました!」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13