「名前!」
今まで持っていなかった以上名前を呼ばれるのは初めてで、ブラウニーは人間に変身したときと同じくらいときめいた。
「はい。ブラウニーさんが人間でいることを志望する、動機を教えてください」
「名前だ」
この名を人間になってからも使おう、とブラウニーは胸をいっぱいにして決意する。
「おい。面接はもう始まっているんだよ」
魔法使いは人差し指の先で机を軽く叩いた。いつの間にか机の上には紙の束と羽ペンが用意されている。
「そうだった。」ブラウニーは背筋を伸ばした。
「動機ってなに?」
ブラウニーの質問に、魔法使いはため息をつく。
「動機ってのはなぜそうしたいか、ということさ。別の言葉で言えば、理由、かね」
「あ、今のいろいろ、減点?」
「まあ、大目に見てやるよ」
ブラウニーはそっと胸を撫で下ろした。ペナルティはないとはいえ、減点からのスタートでは先が思いやられる。
「理由、ねえ」
しばし天井を見上げ、言葉を整理しようとする。天井にも、影ひとつすら浮かんでいない。真っ白だった。
「はい」
「いちいち手を挙げなくていいよ。あんたしかいないんだから」
「はい」
挙げた右手を引っ込めたブラウニーは、馬車にいたときと同じように、膝に手をついて前のめりになった。
「僕が人間のままでいたい理由は、その方が、楽しそうだからです!」
甲高い声の残響がしばらく部屋を漂った。魔法使いの顔がこの世のものとは思えないほどに歪む。
「ふざけているのかい」
「僕は真面目だよ!」