小説

『魔法使いとネズミの御者』Dice(ぺロー版『シンデレラ』)

「あんたの、人間でいたい、という願いが叶えるに値するかどうか。面接して確かめる」
 ネズミはぽかんと口を開けた。やや大きな前歯が口からのぞく。
「面接?魔法使いさんの質問に、僕が答えるんですか?」
「そうだ。いわば試験だよ。いい答えなら加点、ダメなら減点。合格点を上回れば、このまま人間でいさせてやる」
「不合格なら?」
「心配するな。12時を過ぎたら元に戻るだけだよ」
 ネズミの表情を見て、魔法使いは大げさに目を細めた。一瞬の緊張さえ、魔法使いにはお見通しのようだ。ネズミは右手を挙げた。
「それなら!やります!」
 ダメでも元の状態より悪くならないなんて、そんな好都合なことはない。もちろん、人間になった今では元に戻ることなんて考えたくもなかったが。ともかくネズミにはやる以外の選択肢はなかった。
 魔女は座ったまま両手を広げた。
「じゃ、その椅子の横に立って」
 魔法使いの言葉通り、ネズミは再び右手を挙げ、言われた通りに自分用と思われる金属の椅子の横に立った。座面は、妙にテカテカした緑色の布で出来ていた。こんな素材見たことがない。齧ってもまずそうだ。
「はい。じゃあ、自己紹介をしてから、お座りください」
 魔法使いの鋭い目つきに少しの緊張を覚え、ネズミは背筋を伸ばした。
「はい!元はネズミで今は人間、今のところ御者を仰せつかっています!ネズミで言うところの1歳、だと思います!人間、よろしくお願いします!」
 他に話すことも思いつかず、ネズミは金属の椅子に座った。思ったより感触は柔らかかったが、彼の体重のせいで間抜けに空気が抜けていく。腹が伸縮しない服につかえて、息が苦しい。が、ネズミには、ボタンの外し方が分からない。
「あんた、名前がないのか」
「うん」
 ふうん、と大して興味もなさそうに魔法使いは言う。
「じゃあ、毛の色から取ってブラウニーとでも呼ぼうかね」

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