「面接終わりですか?」
ブラウニーは座ったまま、斜め前に立った魔法使いを見上げた。皺だらけの顔を下から見てもやっぱり皺だらけだなあ、と思い、自分でおかしくなる。ブラウニーを見下ろした魔法使いは、同じように微笑む。
「あんたのことはよくわかったよ。ブラウニー。人間にしてやってもいい」
「本当?!」
勢い込むブラウニーの顔の前に、魔法使いは手のひらを出して止める。
「だがね、それは、あんたが生きる社会も、生活の仕方も変わるということだ。本当に分かっているのかい?あんたのネズミとしての今までの生は、ほとんど役に立たないよ」
魔法使いは両腕を広げて見せた。窓もなければ風もないはずなのにローブの長い袖がはためいている。いつの間に着替えたのだろう。ブラウニーはそっと自分の口ひげを触った。
「役に、立たないですかね?」
「ああ」
「あんなに弱い体で何度も死線をくぐりぬけて、やっとここまで生き延びてきたのに?」
「それが、社会が、ルールが違うということさ」
魔法使いは静かに息を吐いた。
「あんたは今までどうやって食べ物を得てきた?人間の蓄えから掠め取ってきたんだろう。ネズミは弱者だからそれが許されるが、人間になって同じことをすればルール違反で捕まる。自分で、例えば乗合馬車を経営して得た金で買わなきゃいけない。繁殖だって、さっきは冗談にしたけど、人間になったら子供が生まれておしまいってわけにはいかないんだよ。育てなきゃいけない。この時代のこの国でだって平均すれば人間は40歳くらいまで生きる。考えなしに産んで、経済的に立ちいかなくなって自分の子供を捨てた話もたくさんある。そういうことをする人間を、なんて呼ぶか知っているかい?」
ブラウニーは、静かに首を振る。魔法使いは、自らの腰に手を当てた。
「さっきも言ったじゃないか。人でなしと言うんだ」
ズボンに包まれた脚が、一瞬総毛立つ。
「例え人間になっても、道を踏み外したら人ではなくなる。ネズミなら見逃されることが、人間になったら見逃されない。生物として、格段に強くなるからだ。強くなったら自由になる。自由の代わりに責任がついて回る。」