自分がこの種に生まれついた理由。つまりは、ネズミに生まれて良かったと思うこと、だろうか。
「あ、じゃあ、ネズミは、繁殖力が強いから、たくさんの雌とセッ」
「減点!」
「うーん」
思った以上になにもない。ずっと暗い時間に行動し、敵に捕まることに怯えながら、世界の片隅で生きてきた。
ブラウニーは、床からそろそろと視線を上げ、厳しい顔を保っている魔法使いを上目遣いで見た。
「世は弱肉強食だと知っておくため、でしょうか」
「ほう」
魔法使いが両眉を上げ、先を促す。ブラウニーは言いにくそうに口をもごもごさせている。
「ネズミって、自分で言うのもなんですけど、弱いじゃないですか。ずる賢いから強い、って見る向きもあるみたいですけど、体の大きさや力の強さみたいな、単純な生命力で言ったら弱いんです」
寿命も短い、とブラウニーはため息をついた。
「その短い寿命まで生きていられることも少ないですけどね。僕の両親はちょっと家の外に出た隙にシンデレラのお姉さんたちに見つかって殺されちゃいましたし、兄弟も野良猫に食べられたり、トンビにかっさらわれたり、身も蓋もない言い方をすると、ろくな死に方をしないんです。より強いものに殺されて、死ぬ」
ブラウニーは膝の上で両手を組む。
「ネズミとして生まれてきた意味があるとするなら、根本的に、弱い動物と強い動物がいると身を以て知っておくため、かなぁ。今、人間になって、すごくありがたみが分かります。とりあえず人間は誰かに食われる心配をしなくていいですからね。生を邪魔されない。だからさっき、将来のことを考えたのはすごく楽しかった」
人間が先の生について思い悩むのは強い生物だからだと、さっきブラウニーは思い知った。ネズミのように色々な敵に狙われ、次に食べるものと子孫を残すことで精一杯な動物たちは、常に今日を生き抜くことしか考えられない。
「まあ、食われることはあまりないね。殺されることはあっても」
物騒なことをさらりと言うと魔法使いは立ち上がり、白い机を回り込んでブラウニーの方にゆっくりと歩いてきた。