途端に、トーコは微妙な表情で固まった。困ったように下がった眉毛と、無理やり笑う口の形がひどくアンバランスで、そんな顔をさせてごめん、と思うけれど、聞かずにいられなかった。
「だって、わざわざ針まで刺して血を抜くなんて。痛いのに、どうしてそんなことをするの」
「それはまあ、痛いよ。痛いけど、我慢できないほどじゃないし、それで誰かを助けることが出来るなら嬉しい。それに」
桐子はちょっと首を傾げてジュースを飲んだ。小さな口元がストローを弄ぶ。
「ふわっとするの」
「ふわっと?」
「そう。不思議な感じ。血がするするっと抜けていくの。こんな風に」
桐子がストローを吸い上げる。黒く陰った液体が、尖った赤い唇の先へと半透明の管を滑り上がっていく。
「血ってね、思ったよりさらさらしてるの。それがどんどんパックに溜まってく。ついさっきまで私の体の一部だったはずなのに、あっという間にパッキングされてモノになっちゃう。私だったモノが何処か遠くに運ばれて、知らない誰かの一部になる。そういうことをずっと考えてると、このあたりがふわっとするの」
桐子は、大きな赤いペンダントのぶら下がった胸をそっと押さえた。伏せた眼差しはトレイに向いているけれど、見ているのは安っぽい広告なんかじゃない。
遠く遠く、桐子だったモノが運ばれていった、見たこともない何処か。
「つばめ?」
「あ、うん、ごめん」
「ううん、いいんだけど。変な話しちゃったから、引かれたかと思った」
ぎこちなく笑って、桐子はポテトを口に入れる。油と塩の粒で、指先がキラキラ光っている。
「そんなんじゃあないよ。想像していた」
「何を?」
「桐子の血の、その後について」
「何それ、変なの」
今度の笑顔は柔らかかった。私もほっとして、握りしめていた手を組み替える。
「ね、つばめ。明日空いてる?」
「うん、ずっと空いている」