小説

『ウルトラマリンの夜』眞中まり(『銀河鉄道の夜』)

 乗れ、と叫んだ先生の額からは血が流れていた。
 むせかえるような火薬の匂いと、爆発、けたたましく鳴るサイレン。友達の腕が吹き飛ばされる。がなり立てるすべてを遠くに聞きながら、わたしは必死で手を伸ばして、先生の手を掴む。

 
 ひとつ、わたしは息を吸った。先生がわたしを見る。凍えて震える樹のような目をしている。わたしは先生の方を見なかったし、何も言わなかった。
 地球ではたくさんの人たちが殺し合って建物が壊れて、すべて燃えているのに。ほんの少し宙に浮けば、星々の間を縫っていけるこの高さならこんなにも静かなんだ。
 辿りつく終点があるのかどうかをわたしも先生も知らなくて、そこに何が待っているのかもわからなくて。列車は車輪を回して、ただ宇宙の中を滑っていく。
 けれど何も変わらない。たとえば好きな時に建物の外に出ることができないような、次にどんなこわいことが待っているのかわからないような。大人が始めたあの戦争と、この場所での日々は何も変わらない。爆発が起きないだけ、うるさくがなり立てる音がないだけ、誰かが死ぬことがないだけ、この場所の方がずっとずっといい。
 だからわたしは平気ですよ。先生。

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