始発で家に帰り、わたしはシャワーも浴びずにベッドに倒れこみ、眠り続けた。
昼過ぎ、空腹で目を覚ましたわたしは、冷凍してあった食パンを食べた。カーテンを開け、明るい日差しに目を細めた。
時差ボケのような感覚が抜けない。お湯をたっぷり張ったバスタブに身を沈めると、霞がかっていた頭がやっとはっきりとしてきた。
それと同時に四限目の授業が出席を取る日だったことを思い出し、わたしは大学へと行く準備を始めた。
いつもの服に、いつもの眼鏡をかける。玄関に脱ぎ捨てたヒールが転がっていた。ヒールを立てて、きちんとかかとをそろえて置いた。
右足をヒールに乗せてみたが、すぐに足をひっこめ、スニーカーを履いた。
講義には無事間に合い、出席確認の用紙を手に入れたわたしは、すっかり気が抜けて、椅子にもたれかかった。どこか現実がぼんやりとして、教授の話は耳から抜けていった。
わたしは成人した。
十九と二十の境界はどこまでもあいまいで、別に何も変わらない気もする。
変わったことは何だろう、とわたしは思いを巡らせた。
お酒を飲んだり、タバコを吸えること、あとは選挙権があること、大人と同じ様に罪を罰せられること。
靴をスニーカーに戻しても、じくじくと赤く痛むかかとが昨日の出来事を思いださせた。痛みを愛おしく感じるのははじめてのことだった。
すっかり暗記したナプキンの十一個の数字をノートの端に書き記した。
誕生日から、三日後わたしは電話を鳴らした。すぐだとわざとらしい感じもするし、時間を空け過ぎれば、すっかり忘れ去られそうな気がしたからだ。
私の心配とは裏腹に、女は電話越しにも凛とした声で、てきぱきと会う場所と日時を決めた。
女との待ち合わせは、別れた改札駅だった。
女はすぐに見つけることができた。女は前あった時と似たような格好だったからだ。足のラインがよく分かるパンツに、おへそがチラリとのぞくTシャツ。
シンプルな格好だったけれど、それが女のスタイルのよさを際立たせていた。