「ええっと、うりこひめは助かって、そのまま嫁ぐパターン。うりこひめが死んじゃうパターンだっけ」
「語り継がれてきた民話だから、地方によっていろいろな結末があるみたいだけどね。どっちにしても、あまのじゃくは懲らしめられるか、死んじゃうの。あまのじゃくにとってのハッピーエンドはありえない」
沈黙が訪れると、草むらでなく虫の声が迫ってくるように感じた。こういうときに限って、風は止んで、じんわりと汗がにじむのを感じた。
わたしは明るい声で言った。
「ねえねえ、本当は二人で意気投合して、どうでもいい田舎から飛び出して、都に行って、めくるめく官能の世界をのぞいて、二人で幸せに暮らしてほしいな」
「あはは、妄想力すごいね。ねえ、そもそもあまのじゃくは男なんだっけ?」
あまのじゃくが男か女かどうかなど考えたこともなかったわたしは戸惑ったけれど、次の瞬間には強く口に出していた。
「あまのじゃくは、あまのじゃくだよ」
「でも、そんなうまいこといくかな」
メイはそう言いながら、缶の淵を指でなぞった。いつもの赤い唇は、今日は白く、ささくれていた。
わたしはたまらなくて不安になって、「いくよ」と言った。それを聞いて、メイは横に流れた髪をかき上げて、微笑んだ。
「次はいつ会う?」
メイからそう言ってくれたことにわたしは安堵した。
メイとの約束の日、台風が来た。
普段は時刻通りに動くことが当たり前の電車があっという間に乱れ、遅延した。いつもより混んだ電車に乗り合わせた人々の視線は空をさまよい、空気がどことなく張りつめている。
わたしはメイに電話した。
メイは何度ならしても電話にも出なかった。約束の時間から二時間後、降りしきる雨の中、目的地にたどり着いたわたしだったが、そこには誰もいなかった。
メイとは、その日を境に連絡が取れなくなった。雲が立ち込め、光の見えない空はどんよりと重く、気分まで暗くさせた。