女も手に持ったウーロン茶をグイッと飲み干した。
「すごいね。相手の子の名前、覚えてるんだね」
「え、感想がそれ?」
目を丸くして、女は笑った。
わたしがトイレに立った時に女が先に会計を済ませていた。それに気が付いたわたしが財布を取り出すと、女は言った。
「おごるよ」
「それじゃあ、お礼にならないよ」
「じゃあ今度、おごってよ」
駅で別れる間際、わたしは勇気を出して言った。
「わたし、薫。あなたは?」
女はすっかり目を丸くしていた。
「あれ? 名前言ってなかったけ?」
それから、腹を抱えて笑いだした。
「メイだよ」
電車に揺られながら、わたしはすっかりメイにまいってしまった。わたしはずっとこんな風に心のうちを話せる友が欲しかったのだ。
メイの年も仕事も、何も知らない。でも、今日名前を知った。電話番号と名前、それで十分すぎるほどだった。
一週間後、わたしは勇気を出して、メイを食事に誘った。このまま関係を終わらせたくなかった。
呼び出し音がいくらなっても、メイは電話に出なかった。
着信を残した後、もう一度かけようか、でも、着信がたくさん残っていたら、変に思われるかもしれない、と携帯を手に取っては、また置いた。
気分を変えようと、お風呂に入った。バスタブの熱い湯船に入って、前あった時のことを思いだすと、余計に気分が落ち込んだ。