小説

『イン・ワンダーランド』花島裕(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

 「あの、ウサと話したいんだけど」
 「ウサは話したくないってよ~」
 ケタケタと笑う麻里香の声。彼女はこのクラスの女王様だ。誰より目立ち、つるんでいる三人にも常にえらそうな態度をとっている。
 ねえ、ウサ、そうなの? 沈黙なんてずるいよ。
 「あのねえ、ウサはもともとウチらのグループなの。ちょっとハブいてたからその間だけ転入生に優しくしてたの。勘違いだっつーの!」
 クスクス、と意地悪い音が立つ。放課後まだ人の残る教室でそう宣言された私は、これから歩く道を閉ざされてしまった。

 次の日から心機一転、私はウサをあきらめて新しいグループに入れてもらおうと思った。まず声をかけたのは女王チームと対照的な、ちょっと大人しめな四人組だ。
 勇気を出して、リーダー格の青葉早苗にアプローチしてみる。
 「このタオル、カッコイイね。どこのなの?」
 早苗はちょっと驚いた顔をして、
 「ありがと。~~(聞き取れない)の、ライブの」
と答えた。よくわからなかったが、とりあえずそうなんだ、とあいづちをうつ。出足は上々だ。
 「音楽どんなの聴くの?」
 やった、質問してもらった! でも音楽…って私、歌番組見るくらいだよ。
 「うん…あんまり、聴かないかな」
 

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