小説

『イン・ワンダーランド』花島裕(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

 牛乳イッキでクタクタタプタプになっていた昼休み、目の前にいきなり人が現れてびっくりした。え、えと、学校で先生(とさっきの松田)以外の人に話しかけられたのは、いつぶりだっけ。
 「苦手なのに、よく飲んだねえ? ぷふっ」
 目の前にいたのは敬遠してた猫凪千恵だった。そんな笑わなくても。できたら「大丈夫?」とか、優しい言葉が聞きたかったんだけど。
 私が猫凪さんのところに行かなかったのは、彼女がとても一人だったから。誰かを必要とする一人じゃなくて、一人がいいって感じがした。一匹狼? 一匹猫? 的な。
 「宇佐美と話せばいいじゃない」
 するどい。私は今でもやっぱりウサの本心が知りたい。でも、怖い。
 「麻里香が話させてくれないよ」
 「そんなこと。家に行くとか、電話するとかさ」
 ……それ、怖くない? ストーカーっぽい。
 「麻里香もいつもいるわけじゃないし。あの子だって別に所持品じゃないんだよ」
 そんなのわかってる。ウサは自分の考えであそこにいるんだってこと。
 「猫凪さんは、人の目とか、怖くなったことないの?」
 「そんなの気にするの、無駄。私はどこにでも行けるし、誰とでも話せる。誰にも邪魔する権利、ないでしょう?」
 強いなあ。たしかに猫凪さんは、早苗とも、男子とだってよく話している。他校とかにも知り合いがたくさんいそうだ。
 

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