小説

『イン・ワンダーランド』花島裕(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

 言いたいことだけ言うと、猫凪さんは満足そうに去っていった。
 彼女はグループとか、そういう縛りが嫌なんだろうな。彼女のペースでまわりと関わる。かっこいいけど…
 「できそうにないなぁ」

 いろんなことが一日ぐるぐる頭を駆けめぐったけれど、家に帰るとお姉ちゃんがいた。
 もともと一人暮らししていたけど大学がこっちの方だから、もしかしたら一緒に住むようになるかもしれないという。
 毎日新しい顔ばかり見ていた私は、なつかしい姉の顔をみたとたん、ホッとして涙が止まらなくなった。
 「どうしたの? 学校つらい? いじめられた?」
 首を横に振る。肉体的ないじめではない。ただ、誰ともしゃべれない世界は苦痛だった。心底安心した。ああ、私には居場所がある。
 「お姉ちゃんが味方だから。つらかったら、他に転校したっていいんだよ」
 うん、うん。
 逃げたっていいんだ。
 アリスだって、女王に首をはねられそうになって、不思議の国から逃げ出した。
 追って、逃げて、走り続けて、疲れたよね。でも、私はここに逃げ込める。
 「ありがとう。でも、もうちょっと頑張ってみる」
 お姉ちゃんは絶対絶対連絡するのよ、と念を押して帰っていった。
 

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