小説

『イン・ワンダーランド』花島裕(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

 「じゃ映画は?」
 今宣伝してて人気があるやつ…とか早苗には言っちゃいけないんだろうな。ううんと、うんと…。
 「じゃああんた、何が好きなの」
 撃沈だ。
 私には好きなものがないことを知った。
 流行キャラのキーチェーンやなんとなくつけているシュシュとかじゃなくて、胸を張って好きだと言えるもの。
 早苗は呆れたような表情になって、もう質問してこなかった。

 次の日はダメ元で海原菜々と甲斐奈美に話しかけてみた。二人は背格好も髪型もそっくりで、初めはどちらがどちらかわからなかったくらい。いつも二人でくっついて、仲良しなのが一目見ただけでわかった。
 「二人ってすごい似てるよね」
 「よくいわれるんだ」
 「そんなことないよ」
 「いつから一緒なの?」
 「一年のとき」
 「同じクラスだったの」
 「そういえば、担任だった吉野先生」
 「そうだ、吉野先生、おめでただって?」
 「まだ挨拶してなかった!」
 「お祝い言わないとね」
 二人は私の知らない話題でひとしきり盛り上がり、途中からまったく会話に入れないまま休み時間が終わってしまった。取り残された私は、想像以上のアウェイ感だ。
 

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