ベルを鳴らすと執事がドアを開けた。執事はコワリョーフ氏の顔を見ると、当然という様子で「お帰りなさいませ」とうやうやしく頭を下げた。
屋敷は数時間前に見たような荒涼とした様子はまったくなかった。あちこちに明かりがともされ、暖炉には火が燃えていた。すぐにメイドが紅茶を運んできた。お気に入りのスリッパとシルクのガウンが用意された。久しぶりにくつろいだ気分である。コワリョーフ氏は着替えを済ませると、紅茶を飲みそれから盛大に夕食を食べワインを飲んだ。デザートも食べた。そしてコーヒーを飲み、再びワインを飲みながら、屋敷の中をぶらぶらと歩き回った。
それから大広間に入っていった。
広間の壁には布のかけられた肖像画がそのまま置かれていた。事の始まりは、すべてこの絵なのだなとコワリョーフ氏は思った。布に手をかけようとして、思いとどまった。いっそのこと、このまま火にくべてやろうか。だが、その前にもう一度だけあの鼻の顔を見てみたい。
ゆっくりと布をすべらせる。ずるり、と音を立てて布が床に落ちた。
キャンバスに描かれたのは、完璧な肖像画だった。鼻もある。もちろん、目も口も眉も。
だがそれは、見たこともない男の顔であった。