小説

『白雪姫は何人?』こさかゆうき(『白雪姫』)

 わたしは昔ばなしのひとつで、どうにも腑に落ちないものがあることを思い出した。
「浦島太郎は、読みました?」
「もちろん」
「わたし、あの話だけはどうしても納得できなかったんです。浦島太郎はなにも悪いことをしていないのに、最後はおじいさんになっちゃうのってどう考えてもおかしい。いったいこの物語は何を言いたいんだって、ずっと思っていました」
「あ~、それ、わかります。まあ察するに、『約束を破ってはいけません』ってなところでしょうね」
「だとしても、そもそもなぜ乙姫は玉手箱を渡したんでしょう?」
「確かに。竜宮城でなにがあったんだ!って感じですよね。なにか乙姫の怒りをかうようなことをしたのか?とか。でもね、こういう視点って、大事だと思います。物語の背景とか脇役の心理とかを想像できるほうがよっぽど面白い」
 わたしもそう感じることはある。まったくわからない話ではなかった。それにしても、香取の考え方は自分とちがうものがあり、興味深かった。
「香取さんって、体育の先生にしておくのはもったいない気がします。なんていうか、ものの見方がちょっと人とちがう気がします」
 私は本気でそう思った。
「なんか複雑だなあ個人的にはうれしいけど、でもそれって体育教師をバカにしてません?」
 香取がそう言って豪快に笑った。私も思わず笑った。
 そういえば、と前置きをして、香取が本題の本題を切り出してきた。彼の顔から笑みは消えていた。
「中島先生、あの電話を受けてどう思いました?」
 

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