小説

『白雪姫は何人?』こさかゆうき(『白雪姫』)

 今日のあの電話。それは、私が受け持つクラスの生徒の親からのものだった。
 毎年、私の学校では学芸会が行われる。演目は年ごとに異なり、今年は『白雪姫』をやることに決まっていた。原作を読み返して、役の数と脚本(といってもほとんど原作に忠実に再現する)を考えるのが、担任の仕事だった。
 白雪姫、王妃、鏡、七人の小人、王子様、王妃の家来、森の木…。私はストーリーに必要な役を黒板に書き出し、生徒たちはそれにならって自薦・他薦でキャラクターを決めていった。
しかし、電話の主は、それはおかしいと言ってきたのである。主人公である白雪姫は一人しか演じることができず、残りはみんな脇役ではないかと。それでは、白雪姫以外の役を演じる子どもたちが可愛そうだ、と。
 最近、そういうことを言ってくる保護者が増えていると聞いたことがある。こういう言い方はよくないが、いわゆるモンスターペアレントというやつだ。みんなが主人公をやるべきだ。脇役だけをやらせるなんて、うちの子が不憫だ。
 私は親になったことはない。だから、我が子を想う親の気持ちを完璧に理解できるわけではない。でも、それでも、そういう主張はやっぱりおかしいと思う。
 だから香取の質問にも、こう答えた。
「みんなが主人公を演じることがいいとは思えません。何をするにしても、人それぞれの役割があって当然じゃないですか?」
 香取に質問を投げかけたつもりで、私はお代わりしたビールに口をつけた。
 

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