小説

『白雪姫は何人?』こさかゆうき(『白雪姫』)

しかし、香取は新たにテーブルにやってきたゴーヤチャンプルーをつつくばかりで、何も答えてはこなかった。
「例えば、学校の先生だってそうです。トップに校長がいて、それをサポートする副校長がいて。学年全体を見渡す学年主任がいて、それぞれのクラスを見る担任がいる。階級の差はあるけど、それぞれがなくてはならない役なんです。みんなが校長になったら、授業は誰がやるんですか?それと同じで、白雪姫というひとつの物語は、白雪姫以外のキャラクターがいてこそ成立する。そういうことを、生徒たちに知ってほしいんです」
 ここまでしゃべって、私はゴーヤチャンプルーに手をつけた。香取が何かを話すまで、わたしは何も言わないつもりだ。
「こんなことを言うと中島先生を怒らせちゃうかもしれないんですが。僕から
見れば、電話をかけてきた親も、中島先生も、同じなんです」
「それってどういう意味ですか?」
 わたしはあの親と同類扱いされたことで内心むっとして言った。いつの間にか泡盛に切り替えていた香取が、グラスの中の氷を指でくるくると回しながら続けた。
「なんていうか…親のほうは『みんなが主役を演じるべきだ』と主張している。中島先生は『主役も脇役も関係なく、みんながそれぞれの役を演じるべきだ』と主張している。確かに主張の内容は正反対です。でもね、やっぱりおんなじなんですよ」
 ちょっとした謎かけのようだ。酒のせいか、頭がすぐに追いつかない。香取が続ける。
 

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