小説

『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』角田陽一郎(『夜明け前』島崎藤村)

ドキュメントロケバラエティブームが崩れ去った後、不況が続く日本国民がテレビにその次に求めたものは生活に役立つ“お得な知識と情報”で、お台場ではトリビアという単語が発掘され、汐留では日常で使える裏ワザがバシバシ発明され、六本木では学力知識を答えるスタジオクイズに発展して、おもしろさの中に何かしらのお得な情報を混ぜれば視聴率が取れるといった薄っぺらい味付けの番組が各局で増え、なんていうかそのお得情報に辟易しつつも、なんとなくこのまま天下泰平でテレビは安泰な絶対的なマスメディアなのだ的ゆるい雰囲気の中での各局の視聴率競争の中で、赤坂の自分が総合演出する『ゴールデンのアイドル司会の番組』は、まがいなりにも一城の主として日夜寝ないで戦い続けた結果、次第に人気番組になっていき、視聴率20%取れば天下を取れるんだろ!って信じ続けた闇の20世紀の20代の男が、実際体感した華やかな21世紀の30代前半は、なのになぜか闇を抜けた感じが全くせず、きっとそれは一城の主にはなったけれども、自分が誰かを蹴落として全権を持つプロデューサーになって自分の国を持たなければ、そしてそんな番組という国を何国も束ねて本当に天下一統しなけりゃ闇が明けないのだという下克上的野望にいつしか窯変して、そんな天下取りの思いにうつうつしつつ、前にも増して企画書をしこしこ作り続けていた2005年の2月9日に、突然黒船が天下泰平のテレビの国たちを襲ってきたのは、浦賀ではなくなんとお台場だった。
 

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