小説

『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』角田陽一郎(『夜明け前』島崎藤村)

ADの夜明けはいつ来るのだろう?それはディレクターになればきっと明けるのだと、頑なに自分に信じ込ませてだましだまし日々を過ごすと、程なくして三年目にはディレクターに昇格し、ただの取引先相手だと思っていた“芸能人”は、実際自分で演出するため会話するようになると、やっぱりそこら辺の一般人よりはるかに能力の高い“タレント”持つ人たちで、そんなタレントさんに気に入られるように、そんなタレントさんを使って面白い番組が作れるように、そんな使命感という重石が、ディレクターを2年3年と続けると、ADのときに感じた身体的苦痛以上の精神的プレッシャーを感じるようになり、いつか視聴率を取って、有名番組を作って、華やかな業界人生活を送るぞ!とか決心しつつも、当時バラエティ番組では芸人がヒッチハイクしたり地方の田舎で素人さんが活躍するドキュメントロケバラエティが各局で大ブームで、ご多分にもれず自分が配属された番組もそんなドキュメントロケ企画を日々作り高視聴率を稼ぎ出し、そのためディレクターになったらなったでフル回転で日々会議してロケハンして構成決めて地方にロケ行って、帰って来て寝ずに編集して、その編集Vを先輩の総合演出にチェックしてもらって、ダメ出しされ、修正して、収録スタジオでタレントさんの前で披露して、それが受けたりすると殊の外嬉しくて、イマイチの時はかなり凹みながらも、そのスタジオ収録素材をまた独房のような編集室でまた三日三晩かけて編集して、その間に次の地方ロケを仕込みながら、ようやく完成して搬入してOAして、翌日朝9時に発表される視聴率に一喜一憂して、そうするとまた次の地方ロケに行ったりして、それでも夜明けが来るのを願いながら時間を見つけては構成作家と会議して新企画を開発しつつ、自分の好きな芸能人はむしろニッチなマニアックなタレントだから、視聴率取るためにはむしろ自分があまり好きくなくても他局でもよく出ている話題の芸能人がよいのだろうと、そんな人気タレントさんが出演するような番組の企画書をしこしこ夜が明けるまで寝ないで作って、それを上役だったり編成に提出して、いつかは自分が総合演出をはるような、一国一城の主になるような、自分のやりたいことをやりたいだけ実現して、それでみんなにゲラゲラ笑ってもらって世界がぱーっと明るくなるような、そして視聴率もバカみたいに取って、よ!人気ディレクター!とかもてはやされたりする夜明けを夢見ながら、しかし実際はそんなうまく自分の企画が採用さることはなかなか無く、また結局寝ないで、地方ロケ、編集、収録、編集、OAという無限サイクルを繰り返す、そんな28歳の夜明け前だった。

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12