小説

『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』角田陽一郎(『夜明け前』島崎藤村)

2011年3月11日14時46分、その時からテレビは東北の火事と津波の惨状を夜通し映し続け、そして次の日テレビ映像はいつしか原発がクラッシュする映像に切り替わり、バラエティ番組は吹っ飛び、翌日の日曜日にお笑いタレントと浅草で他愛もないぶらりグルメロケを予定していたのだが、前日夜に会社からロケ撮影中止のお達しが来た、そんなふざけたことやってる場合じゃない!って、そしてそう言われた瞬間に、入社直前の学生時代の卒業旅行での、もし戦争になったらいらないって言われる職業こそ、真の文化を作るのだ!と生意気に反論したことがフラッシュバックしてきて、それは実際は戦争でではなくて地震でだったけれども、バラエティ番組を作るこの自分の職業が、いざ実際にいらないと言われる状況になってみると、そのあまりの事実に愕然となった。
その瞬間僕は気付いた。華やかなテレビの世界の中でカルチャーの波の上を上手に波乗りしながら波と戦い続けることで、いつか夜明けがやって来ると信じてやって来たけれど、しかし今、波乗りできないほどの巨大な津波が襲って来たとき、むしろその津波と戦わずに逃げたっていいんじゃないのか?逃げて逃げて、そしてまた生きる。僕が目指したバラエティというのは、テレビの中だけで波乗りするような閉じた世界の娯楽ではなくて、テレビの枠とか囲いとかフレームとか関係なく、もっといろいろの、それこそ人生すべての、すべての世界の、まさにあらゆるいろいろな楽しさや喜びやおかしみや暖かさを総動員して、いろいろ駆使して、それがひろまって、それをみんなが楽しんで、世界がぱーっと明るくなるような、そんな世界をめいいっぱい生きることなんじゃないか、テレビを飛び出して、ネットとかも飛びぬけて、本当にリアルにバラエティな人生を生きた時見えるその輝きが、それが本当の夜明けなんじゃないか。僕が待ちに待った夜明けなんじゃないだろうか。
 

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