小説

『ふくらはぎ長者』薪野マキノ(『わらしべ長者』)

「もう誰でもいいからひとり来てくれよ」
「そういう訳にはいきません、私どもできちんと決めて、選ばれた者のみをそちらへ行かせますので」
「じゃあババ抜きで決めてくれ、最後にジョーカーを持っていた者が来るんだ、それなら絶対に決まるだろう」
「分かりました」
 ババ抜きのルールを知っているのがひとりだけだったので別のゲームがいいと言い出したが、ぼくが簡単に説明してやり、三人はしぶしぶババ抜きを始めた。意外とすぐに決着がつき、三人ともババ抜きが気に入ったようだった。
「さすが、新しい駅長様でございます、こんなにすんなりと決められるとは思っていませんでした。今後、会議の折りなどババ抜きを取り入れてみようかと思います」
 選ばれたひとりがやってきた。ぼくは部屋に招き入れ、さきほどの元駅長と同じようにバーボンを勧め、注いでやった。
「ぼくは駅長になったわけだけれど、あまりここでこうしているわけにもいかないんだ。ぼくは図書館に行く途中でね、バスに乗りたいんだよ。だからきみが駅長を継いでくれないか」
 駅員はせっかく飲んだバーボンをすべて耳から吹き出した。
「ととととと、とんでもありません、あなた様がいてこそこの駅は復活したのです、私など、とても駅長など務まりません、すぐに駅はつぶれてしまいます」
 二杯目のバーボンを注いでやった。
「駅長の命令でもかい」
「いえ、命令に背くわけにはいきませんが」
「大丈夫だ、駅は十分に賑わっているし、困ったことがあればババ抜きをすればいい。ぼくは図書館へ行くんだ。好きな小説の八十二巻目を借りるんだ。駅長をしに来たわけじゃない」
 駅員は帽子を脱いて敬礼した。
「分かりました、駅長の任、確かにお引き受けいたします。実は、私はずっと駅長に憧れておりました。私のところにジョーカーが残ったのは、もう運命でございます。運命とあなたに感謝いたします」
 新駅長はぼくに鍵をよこした。

 

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