小説

『ふくらはぎ長者』薪野マキノ(『わらしべ長者』)

「でも踊らせてくれたのはあなたよ。こんなに素敵なダンスをする娘さんなら、安心して図書館を任せられるわ。よろしくね。早速、貸し出し手続きをしてちょうだい」
 娘はおばあさんの座っていた椅子に座り、どこからか持ってきた五つの帽子を投げ上げつつ交代でかぶり、さらに座っている椅子をくるくると回転させながらぼくの本のバーコードを読みとり、見事に貸し出し手続きを済ませた。
 おばあさんはカウンターの外へ出てダンスの行列を指揮し、ダンサーたちは思い思いの階へ散らばっていって、それぞれ画集や小説やクイズの本などを持って戻ってきて貸し出しカウンターに並んだ。
 おばあさんはぼくの前で五本のステッキを器用に操りながらダンスを始めた。
「ああ、あなた、素敵な娘さんを連れてきてくださってありがとう。お礼をしなくてはなりませんね」
 おばあさんはぼくの前にひざまずき、小さな小さな声で言った。
「実は私、この宇宙を所有しているの。あなたに宇宙を丸ごと差し上げるわ。あなたになら、安心して委ねられる」
 そう言うとおばあさんはくるくる回って立ち上がり、カウンターの奥へ去っていった。娘は嬉々として仕事を続けていた。
 ぼくはやっと小説を借りることができて、ほっとした。帰りもバスはひっきりなしにやってきて、すぐに乗ることができた。
 宇宙をもらったぼくは、家に帰って小説に読み耽った。
 所有者が変わっても、宇宙は特に変わりなく続いた。ただ、この街は前よりも賑わって、娘は幸せそうに仕事をしていて、ふくらはぎはおばあさんの足下でダンスを続けている。ぼくは百巻も続く大好きな小説を読み終え、また一巻から順に借りて読み続けている。

 

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