「これ、もらってもいいかしら」
おばあちゃんの胸に抱かれたふくらはぎは、綺麗な風呂敷に包まれたワインボトルのようだった。
「ぼくのじゃないよ」
「けいちゃんが拾ったんだから、けいちゃんのよ、だからけいちゃんがあげたり、あげなかったりできるのよ」
少しずつ必死な表情になっていく顔の皺のうえでは、電車があちこちで正面衝突を繰り返し、人々がわらわらと飛び出してきては鼻の穴に逃げ込んでいた。
「分かったよ、おばあちゃんに任せるよ」
「まぁ、よかった、よかったわね、あなた」
あなたと呼ばれたふくらはぎは、母親に抱かれた赤ん坊のようにおばあちゃんの胸で安らいでいた。
「そうだわ、お礼にこれをあげるわ」
おばあちゃんが鼻を捻ると、なかに逃げ込んで一息ついていた乗客たちが悲鳴を上げ始めた。なおも捻られた鼻はついにおばあちゃんの顔面から離れ、乗客たちは閉じ込められたまま、祈ったり呪ったりした。
「鼻じゃないか」
「そうよ、鼻をあげるわ」
「鼻なんか、いらないよ」
「鼻は役に立つわよ、犬になった時のことを考えて、取っておきなさい」
「犬になる予定、ないよ」
「あら、けいちゃん、大きくなったら犬になりたいって言ってたじゃない」