年取った女が高速道路を下りてきた。踵まである長い紫色のスカートを履き、ツイードのジャケットを羽織って颯爽と階段を下りる。深く刻まれた顔の皺は街に張り巡らされたメトロのようで、オレンジ色と緑色の電車が走っている。幼い頃、よくあれに乗っていた。祖母の家は電車で二駅のところにあり、そういえばあの女のような長いスカートを履いていた。
「あら、けいちゃんじゃない」
祖母だった。顔の皺ばかりを見ていて、顔をよく見ていなかった。
「おばあちゃん、なんでこんなところに」
「図書館へ行くのよ、この街の図書館は、世界中の踏み切りを映した映像資料がたくさん置いてあるから」
おばあちゃんは隣りに座り、出てもいない汗を花柄のハンカチで丁寧に拭いてから、ふくらはぎの上に座ってしまったことに気付いた。
「あらまぁ」
ふくらはぎは少し痙攣していたが、おばあちゃんが謝ると大人しくなった。おばあちゃんは先程のハンカチを広げてベンチに置き、その上にふくらはぎを置いてそっと触った。
「これ、けいちゃんのなの」
「違うよ、ここに落ちてた」
「まぁ、そうなの」
「バスの運転手さんに届けたらいいかなと思って」
「まぁ」
おばあちゃんはハンカチでふくらはぎを丁寧に包んでいき、最後に結び目を作ってきゅっと結んだ。