小説

『泥田坊』化野生姜(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)

「私はこう見えてここの地区の出身でね、この田んぼの話は祖母から随分前に聞いていたのさ。他にもいろいろ教えてもらったよ。旦那がお伊勢参りに行っている間に三人の継子を殺して行方不明にした女の話とか、今みたいな妖怪の話とかね。」
そうして教授はもう一口ビールを飲むと、今度は真剣な顔をした。

「だが私は信じなかった。ここで何かが沈むのは祟りや呪いのせいじゃなくて地形の問題だと私は信じていたのさ。そうして昼の調査でそれが証明された…ソナーは沈んでしまったけれどね。」
そうして最後の一滴までビールを飲みほすと教授は車に積んであった毛布を引っ張り出し、酒によって赤くなった顔を私に向けた。
「だから私はあきらめない。明日になれば調査ができる。だから早めに寝させてもらうよ。」
そう言うと教授は毛布を頭まで被り、そのまま寝入ってしまった。
私はため息をつくと、教授の側からもう一枚の毛布を取り出していざというときの為に運転席に座って眠る事にした。

深夜、私はざわつくような気配に目を覚ました。何かが気がかりだった。
外は暗く、車内には泥臭い土の匂いが充満している。
私は嫌な予感がした。
私は手探りで車の明かりをさがし出し、しばらくすると車内が明るくなった。
そうして私は車内を見渡し、息をのんだ。

車の後部座席に大量の泥が塗りたくられていた。いや、泥が侵入したとでも言うべきだろうか。とにかく座席の窓から座席に置いた荷物の全てにまで大量の泥が覆い被さっていたのだ。

特に座席の下がひどく、まるで土砂崩れにあったかの様に草の混じった泥が座席の足元くらいにまで積もっていた。そうして私はその中から教授の頭部がほんのわずかに覗いているのを見つけ出した。

私は慌てて後部座席に積もった大量の泥をかき分け、その中に埋もれている教授の身体を掘り起こした。
 

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