小説

『泥棒ハンス』化野生姜(『おしおき台の男』)

女将は落ちた目玉に気付いたらしい。
あんた目玉はどこにやっちまったのさ。

ハンスはにやにや笑ってこう答えた。
カラスが運んで持っていっちまったのさ。

そこで女将は自分が話しかけているのは自分がかっさばいた死体であると気付いたらしい。女将は震えた声で腹部を指差し死体に聞いた。
あんた肝臓はどこにやったのさ。

ハンスはとびきり怖い声を出した。
あんたが食っちまったのさ。

森にまで届くんじゃないかというぐらいにでかい悲鳴を上げると女将は一目散に部屋の奥へと行っちまったよ。それでさっさと戸口から台所に忍び込むとまな板の上の肝臓を取り上げたんだ。そんで絞首刑台に向かってから腐った死体を元通りに吊るしてそれから目当ての死体を持ってお医者さんのところへと向かったのさ。あとはそちらさんの知っての通り。あっしは死体を元の場所に戻して素知らぬ顔をして町に戻ったとそういう訳さ。

医者はその話に目をぱちくりさせると腹を抱えて笑い転げた。そうしてビールを二杯頼むと一杯をハンスのほうによこした。そうしてちょっと困った顔をして、さて謝礼を払わねばならないがどうしたらいいのかなとハンスに聞いた。ハンスは首をすくめると医者に向かってこう答えた。

いえ、あっしはただ死体を運んだだけですからね。それに前金の銀貨と今回の話で十分面白い思いをさせていただきました。ですからお代はこのビールで全部受け取った事にいたしましょう。ただ、もし何か他に頼みたい事がありましたらいつでもあっしに言ってくださいね。

医者はハンスの言葉に喜んで二人は仲良くビールを飲んだ。
そら、部屋の隅をねずみがかけていくよ。これで話はおーしまい。

 

1 2 3 4 5