小説

『泥棒ハンス』化野生姜(『おしおき台の男』)

医者が袋を開けてみるとそこには昼頃に縛り首にされた男の死体が入っていた。しかし、その死体には腹部に横向きに切られた傷があった。不審に思う医者にハンスはふところから黒っぽい布製の包みを取り出し医者に渡した。

急いでいるからな。早くしてくれよ、お医者さん。そう言うハンスに医者が包みを開けてみると中から一つの肝臓が転がり出てきた。医者は疑問に思いながらも昔に宝石を隠した場所、つまりは男の肝の臓から素早く宝石を取り出して臓物を戻すと傷口まであっという間に縫い合わせた。その腕の見事な事。縫ったあとすら分からないほどのきれいな皮膚にハンスはふふんと声を上げた。

こいつぁ驚いた。お医者さんは一流の仕立て屋になれますな。あっしも見習いたいくらいですよ。ハンスは冗談めかしてそういうと袋の中に死体を戻し、それでは明日の昼頃に酒場の奥で落ち合いましょうと一言告げるとあっという間に森の向こうへと走って行った。医者は宝石を持ちながらその姿を呆然と眺めていた。

そうして夜が明け一番鶏が鳴くと心配になった医者は絞首刑台へと様子を見に行った。すると男の死体は元の場所にまるで何事もなかったかのようにぶら下がっていた。さてはあの泥棒は本当に仕事をしてくれたのだなと安心していると何やら近くの宿屋が騒がしい。見てみると宿屋の女将が役人にしょっぴかれていくところが目に入った。

これは一体どういう事だ。医者が近くの人に聞いてみると宿屋の自慢の肝臓料理が実は絞首刑になった死体から切り取って作られたものだと皆に知られたからだという。その原因というものが昨日の夜に肝臓を盗られた幽霊が女将のもとにやってきて、それを見た女将が朝まで宿の隅で震える事となり、不審に思った宿泊客が女将を問いただすと事の次第を女将が打ち明け、翌朝役人がやってきて女将はお縄になったという話であった。
 

1 2 3 4 5