小説

『幸せ半分』吉倉妙(『ぶんぶく茶釜』)

 残り少ないどころか、狸は、和尚が引き取ってきた二日後に、永遠の眠りについたのであったが、最後の願いは、
「私のしたことは結局、私の自己満足だったようにも思います。ですから、これにより富を得てしまった道具屋さんが、今後は普通の幸せを築けますように……」であった。
 おぉ、そこまでの道理を悟っておったとは、なんと利口な狸であったことよ。
それほどまでに道具屋を思う気持ちは、一体どこからきたというのか?
息を引き取ると同時に茶釜も消えて、身軽になった狸の体に向かって手を合わせた和尚は、狸の深い思いの意味を知った。
「まさか、おなごの狸だったとは……」
 勝手に先入観で、腕白な子狸坊主と思いこんでしまって、すまなかったのう……。
よしよし。お前さんの気持ちは、しかと受け止めたぞ。道具屋のことは、この先わしも見守っていくから、お前は安心してゆっくりお眠りよ。

 

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