蛇口を全開にし、フライパンを水で満たした。
「ねえ、いつも言ってるよね。すぐ洗わないと、手間になるって」
ヒロは聞こえないふりをしているのか、返事がない。
リビングに戻ったまことはソファに座ると、「ちょっと休憩」と言って、ヒロの横に座った。まことは鼻をくんくんさせ、不平がましく言った。
「お酒くさい」
「一人でも晩酌するよ」
「そうですか。…なんか思ったより、疲れるもんだね」
「中学の友達だっけ?」
「うん、ヒロは今付き合いある? 中学のときの友達と」
「中学の友達ねー。あ、俊平がそうだよ、磯部 俊平。まこも、会ったことあるよ」
「磯部くんは、それこそ生まれたときから家族ぐるみでしょう? 毎年定期的に会ってるし」
「そうか。じゃあ、郁也かな」
「誰、それ?」
「郁也は、中学の時同じ部活で超仲良かったんだけど、今じゃ何してんだか」
「ふーん、そんなものかな。前会ったときは楽しかったけど、今日は一瞬空気ぴりっとして焦ったなぁ」
まことがため息を吐くと、ヒロは「よしよし」と言いながら、まことの頭を撫でた。
「ちょっと、話終わらそうとしてるでしょ」
まことが抗議すると、ヒロはそっと立ち上がった。
「いやぁ、あっ、風呂沸いてるよ。お先どうぞ」
まことは、もう調子がいいんだからと心の中で毒づきながら、バスルームに向かった。
三人で会ってから、ちょうど一週間も経った頃だった。まことがテレビを見てくつろいでいると、携帯が鳴った。ディスプレイには『夏』と出ている。
「あ、まこ?」
携帯からは雑踏の音がして、夏の声は小さく聞こえた。まことは思わず、声を大きくした。
「お夏、どうしたの?」
「まこ、そんな大きい声出さなくても聞こえる。あのさ、会えない?」
「うん、いーね。次は、どこ行く? あっ、ナナにも確認…」
まことの声を夏が遮った。
「ナナ抜きで会わない?」