グローブの置かれた台の下に、新品のC号球が入った箱をわたしは見つけた。表面に凸凹がついている。確か十年ほど前に公認球が変更され、今の学童野球では表面が滑らかになったボールを使っているはずだ。しかしあの子たちには、一つでもボールが多いほうが良いだろう。
手に一球握ると、わたしは投げる真似をした。想像の中のボールは、そのままお店の隅の暗闇の中に飛んでいく。「ナイスボール」と聞こえて、暗闇からボールが返ってくる。わたしはもう一度ボールを投げる。「いいぞ」とまた声がして、ボールが戻ってくる。
父には悪いことをしたな、と今は思っていた。キャッチボールも父子家庭も、父のせいではなかった。それを変だと言われ、変だと思ったわたしが悪いのだった。わたしが弱かった。
「ドンマイ!」
声が響いてボールが戻ってくる。それからしばらく、わたしは思い出の中の父とキャッチボールを続けた。
約束どおり、子どもたちは二週間後の月曜日にやってきた。
「ユニフォーム、取りにきたんですけど」
キャプテンの子の声は、走ってきたせいもあってか弾んでいる。他の子たちも息を切らしながら、輝く目でわたしを見た。手品でも披露するみたいに、わたしは足元からユニフォームの入った箱を持ち上げレジに置く。
ぱりぱりの透明な袋に入ったユニフォームを一着、取り出してわたしはみんなの前に掲げた。
「わぁ」
みんなの口から感動がこぼれる。思わず手を伸ばす子もいる。わたしは身長を書きとめた紙を広げて、八人の名前をそれぞれ呼んだ。一人一人、ユニフォームを渡す。賞状でも受け取るように、両手でしっかりと掴む子どもたちが、袋を手に持って見つめている。
「開けてごらんよ」
わたしは自分のやりたかったそれを、子どもたちに提案する。一人が取り出すと、みんなが続けざまに袋を開き、自分の肩に当ててみた。入り口のガラスに姿を映したり、他の子の姿を見たりして、そのたびに子どもたちは歓声を上げる。