小説

『ユニフォーム』山本康仁(『笠地蔵』)

 そう言って、今まで静かに立っていた中央の子が、手に持った鞄から大事そうに袋を取り出すと、レジの前にやってくる。逆さまにしてレジの上に中身をこぼした。数枚の一万円札に、幾枚かの千円札。ばらばらと重なる五百円玉。大量の百円玉がじゃらじゃらと音を立てて、何枚かが床の上に転がり落ちる。子どもたちが慌ててしゃがんで、拾ったお金をレジの上に置き戻した。
 多く見積もっても五万円というところだろうか。これでは八着揃えるのも難しそうだ。最初に予算を聞いておけば良かったな。後悔を苦笑いに浮かべて、わたしは子どもたちを見る。何と言おうか迷いながら、わたしは目の前に積まれる大量の硬貨に目を戻した。いかにも毎日のお小遣いを貯めたようだった。夏休み中のかき氷やアイスを我慢して、必死でここまで集めたのだろうか。お手伝いでもして稼いだのかもしれない。一万円や千円は、お年玉を取っておいたのか、全てが皺の無い綺麗なものだった。もう一度不安そうな表情を浮かべて、子どもたちがわたしの顔をじっと見る。
「いいよ、九着分、作ってあげる」
 わたしは思い切ってそう言った。あちこちで断られてきたのかもしれない。親からも、そんなことに使うお金はないと反対されたのかもしれない。どういう事情にしろ、この子たちの懸命な願いを叶えてあげたかった。大きなお店ではできないことだ。個人経営だからこそ、利益を度外視して、わたしの一存で可能にできる。
わたしの宣言に、子どもたちは「わぁ」と一斉に色めきだった。
「でも、八着でいいんです」
 みんなをたしなめるように、キャプテンの子が少し声を大きくして言った。
「八着でいいんです。よっちゃんの分はいらないんだもん」
同意を求めるように、みんなのほうを振り返る。
「よっちゃん、お金払ってないんだよ」
 わたしもみんなの顔を見渡した。
「うん、よっちゃんの分はいらない」
 キャプテンの隣の子が答える。
「そうだよ、よっちゃん。いつも自分のお茶持ってこないで、みんなのばっかり飲んでるし」
「グローブだって、あれうちのお兄ちゃんのやつ」
「お金貯めなかったよっちゃんが悪いんだもん」
「給食費もまだ払ってないんだって」
 レジの前は再び騒がしくなった。
「じゃあ、八着でいいんだね?」
 

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