小説

『ユニフォーム』山本康仁(『笠地蔵』)

ボールが何回も跳ねながら、ようやくよっちゃんの手元に戻る。何事もなかったかのように守備に戻る赤のユニフォーム。キャッチャーの子が元気な声をかけると、MOMOTAは次の一球に構えた。
「ショウガ、忘れないでね」
 思い出して、わたしは再びペダルを踏む。かごの縁で羽を休めていた赤トンボが、慌てて宙に浮かぶ。
 こぎ出してすぐ、カーンという響きがわたしの後ろからもう一度聞こえた。その音は次第に、夕暮れの空に霞んでいく。
 今夜はショウガ焼きだろうか。いや、久しぶりに餃子でも作るのかもしれない。

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11