夏の日差しが千恵子の肌を刺す。三十路が目前と迫るなか、この紫外線を地肌で乗り越えようとは無謀だったか。千恵子は日傘の一つなしで学級園に来たことを後悔した。人っ子一人いない中、雨風にさらされ、ところどころはげかかった百葉箱がさみしげな雰囲気を醸し出している。この暑さの中では誰も来ないのも納得だ。
小学生が一生懸命に育てた花が咲き乱れる中を千恵子は紫外線気にしながら、それでもほほえましく思いながら歩いていった。子供にたいして面倒だな、と思うことは多々あるが、愛おしいと思うことはそれ以上にあるものだ。千恵子の頬はなんども緩んだ。
五年生の庭園。後二年で卒業を控える彼らのヒマワリは、さみしさなど微塵に感じさせないほどに力強く花を咲かせていた。少々の風では折れない太い茎、土がはげようとも底から全体を支えている根、なによりはじけるような笑顔を持ち合わせていた。一生懸命に今を生きている。そう思った。
根元には育てた子の名前が書かれた小さなカードがさされており、誰のヒマワリか一目で分かるようになっている。なるほど、こうしておけば世話もしやすいな。千恵子は目当てを探しながら、一人感心した。真紀のごちゃごちゃの引き出しよりずいぶん探しやすいのもいい。
太陽はまっすぐ上に昇っている。一日で一番熱い時間帯だ。延々と続いていそうなヒマワリ園と夏の元気な太陽に疲弊しかけた時、千恵子はようやく一息つけた。一番隅、コンクリートで囲まれた花壇の端に、みんなのものより一回り大きなカードがささったヒマワリがある。だらだらと流れ出す汗を軽く拭い、千恵子はそのヒマワリの前にしゃがみ込んだ。
あの後、真紀は小さく母親に言った。今まで梨華ちゃんを憎くおもっていたこと。梨華ちゃんに暴言を吐いて気持ちよかったこと。梨華ちゃんが無視され始めて、おもしろいなと思ったこと。リカちゃんが学校に来なくなって、心配になったこと。千恵子は日記越しではなく、真紀の口からそのことを知った。
そして、一言。「梨華ちゃんに会いに行く」と呟いた。
淡々と話してくれた真紀は、それでも力強く言った。