「ともかく、さっきのあなたの顔、今までで一番凄みがあったわ」
「本当ですか、花子さん」
「本当よ。私がびっくりしてしまったほどだもの」
思わぬ褒め言葉に、私は思わず嬉しくなった。
「フフ。どうやらあなたに必要なのは、自信だったみたいね」
「花子さん、ありがとうございます」
これで次こそ、子供たちを驚かせることが出来る。そう私は確信した。
あの日以来、なぜか子供たちはトイレに姿を見せなくなった。
「どうしちゃったんでしょう」
四時限目終了のチャイムを聞いて、私はたまらず花子さんに聞いてみた。
「花子さん、今までこんなことありました?」
「あったかしら。なかったかしら。覚えてないわ。ははっ」
花子さんに聞くのは間違いだった。
「もう一週間ですよ。さすがに心配になります」
「そう? なら見に行ってみる?」
「えっ。見に行くって」
「そうよ。トイレから出るのよ」
「『トイレの花子さん』が、トイレから出てもいいんですか?」
尋ねる私に、花子さんは当たり前だと言うように、けらけら笑った。
「いいに決まってるじゃなぁい。トイレにこもってばっかりじゃ、そのうち体からトイレ臭がしてくるわよ」
私は慌てて自分の袖を嗅いでみた。まだ大丈夫だ。
「トイレに人が入って来たら、ちゃんと戻っておけばいいんだから」
「そんな瞬間移動なみたいなこと、出来るんですか?」
「あなた、何か忘れてなぁい?」
「なんでしょう……」
私は一生懸命頭を働かせるが、何も思いつかなかった。
「私たち、お化けなのよ」
そうだった。
「フフッ。トイレから出るの、ちょっとご無沙汰だったから、ちょうど良かったわ」
花子さんは、鏡を取り出して髪を整え始めた。まるでこれからテーマパークにでも行くかのようにウキウキしている。
私の方はというと……緊張していた。
「どうしたの?」
花子さんは、後ろをついてこない私の方を振り返った。