小説

『となりの桜子さん』陰日向(『トイレの花子さん』)

「えぇ。姿が見えないはずなのに、桜子さんのトイレに対する想いが、その般若のような、阿修羅のような、妖怪のような顔を映し出した」
「なんだか、凄い……ですね」
「その結果、子供たちを驚かせることが出来たのよ」
「ほ、本当ですか?」
 驚く私に、花子さんは優しく微笑んだ。
「私……驚かせることが出来たんですね?」
「そうよぉ。あの叫び声が何よりの証拠」
 人を驚かせる。どれほど夢に描いてきただろう。それが今日、現実のものとなった。
私は潤んだ瞳を花子さんに向けた。
「花子さん……」
 花子さんは、腕を組みながら楽しそうにふふんと笑った。
「桜子さん、あなた、思ったよりやるじゃなぁい?」
 私は喜びで頬を濡らしながら、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。花子さん……」

 誰でも一度はお化けにまつわる学校の都市伝説や、怪談話を耳にしたことがあるだろう。
 その中で、最も有名なのが『トイレの花子さん』だ。
 それと共に、最近子供たちの間で囁かれている話がある。
 地域によって多少の違いはあるが、話の筋はというと。
 学校にあるトイレを乱暴に使う。
 そしてそのまま使い続けると、となりで人の気配を感じる。
 さらにそのまま使い続けると……。
 セーラー服に黒髪ロングの女の子が現れ、罵詈雑言を浴びせられるというものだ。
 多くの人は、嘘や作り話、ただの噂だと考えると思う。
 しかし、その話は実在する。
 なぜなら、
 私はその話の主人公である『となりの桜子さん』というお化けなのだから。

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