「あなた、花子さんじゃないんだから、「はい」って返事しちゃダメでしょ」
「はぁ……」
「ああいう時は、自分の名前を言わないと。それに、驚かせる表情がイマイチ」
花子さんは、私の顔を指差しながら鋭く指摘した。
「そんなフツーの顔してても怖くないでしょ」
「そっか、そうですね。私、緊張してしまって。なんか、すいません」
すっかり落ち込んでしまい、小さく沈んでいる私の肩を花子さんは、がばっと抱えた。
「もっと自分を出していこう。攻めていこう」
「そうですよね。栄光は、自分の手で掴むものですもんね」
その言葉を聞いて、花子さんは、私の肩をバシバシ叩いた。
「分かってるじゃなぁい!」
花子さんは、豪快だった。
「じゃぁ、ちょっと練習してみましょ」
花子さんに促され、私はこくりと頷いた。
「何がいいかしら。いろいろパターンはあるけど……」
言いながら、花子さんは顎に手を当て、考え始めた。
「そうねぇ……」
何も浮かばないようだった。
「こんな感じはどうでしょう」
そんな花子さんを見かねて、私は自分から提案してみることにした。
自分の髪を後ろから前に持っていき、視界を全部髪で覆い、少し前かがみにして恨めしそうに手を出してみる。
我ながら、なかなかのアイデアだ。
「却下」
「えっ」
「なんなのそれ」
花子さんは、イラついたような視線を送って来た。その刺すような眼差しに私は萎れるように下を向いてしまった。
「だ、ダメですか……」
花子さんは片手を腰に当て、呆れるように首を振った。
「それって、ちょっと前に流行った貞○じゃないのぉ? あれは人間が創り出したものよ。本物のお化けである私たちが、それを真似するなんて有り得ないわ」
「では、どんな感じにしたらいいんでしょうか……」
「こんなのはどう?」
困り果てていた私を前に、花子さんは、ようやく何か思いついたようだった。両手を自分の首に当て、苦しそうに顔を歪める。そして目をかっと見開き、「ぐおぉぉっ」と声を出した。
「ちょっと怖いかも」
「でしょ? じゃ、やってみて」
私は両手を自分の首に当て、苦しそうに顔を歪めてみた。
「ストップ」
「なにか……?」
花子さんは、眉を寄せながら怪訝な顔を向けて来た。