「す、すみません。あの、よく分からないんですけど……」
「分からないかなぁ。だ、か、ら、おりゃーってやればいいのよ」
余計分からなかった。
私は諦めて自分なりに花子さんぽく、頑張ってみることにした。
とは言え、普段子供たちがノックするのは三番目のドアだ。そのまま花子さんが返事をしては意味がない。花子さんの提案で、代わりにとなりの私が答えるということになった。
「ふふ」
子供たちがどんな顔で怖がるのか、それを思うと私は楽しみで仕方がない。自然と顔がほころんだ。そんな私を見ながら、花子さんが眉を寄せて呟いた。
「不気味ね……」
「何か言いました?」
「なんでもなぁい。もうすぐ一時限目が終わるわ。準備しておきましょ」
私は自分のトイレに戻り、早鐘が鳴るような興奮を抑え、その場に佇んだ。
しばらくすると授業終了を知らせるチャイムが鳴り、トイレに子供たちがやって来た。
「また、やってみんのかよ」
「コイツ、聞いたことないって言うからさぁ」
「ホントに聞こえんの?」
友達を引き連れた子供たちは、はしゃぎながら三番目のドアに近づいた。そして話すのを止め、ドアを三回ノックした。
「花子さん」
「……」
「なんも聞こえねぇじゃん」
「は、い」
「えっ」
四番目のトイレから声が聞こえて来たことに、子供たちは一瞬体が固まったように息を呑んでいた。
「おい、花子さんて、三番目だよな」
「……のはずだけど……」
一人が恐る恐る四番目のドアを開けた。そしてそこにいる制服姿の私を見て……。
「なんだよ」
怖がるはずだったのに、子供たちは安心したように息を吐いた。
「ここは男子トイレだぞ」
「間違って入ったのか?」
「俺たちが入ってきたから、出て来れなかったのか?」
子供たちから矢継ぎ早に話しかけられ、私は黙って頷くことしか出来なかった。
「俺たちもう行くから、あんたも早く出て行けよ」
「もう、間違えんなよ」
「じゃぁな」
そして子供たちが出て行った後、花子さんに怒られている私である。
「ちょっと、桃子さん」
「桜子です」