通常花子さんと言えば、先に述べた通り、赤いスカートに、おかっぱ頭の小さな女の子というイメージである。しかし実際の花子さんは、赤いミニスカートに、前髪斜めのくるくる巻き髪スタイル、バッチリお化粧の女の人だった。おまけに髪は茶色である。
年月を重ねるごとに、その時々の流行を取り入れ今に至るらしい。
花子さんは化粧直しのためか、口紅を取り出した。そして何回も塗り重ねた後、唇を、んーまっ、んーまっとしている。
「次は何が流行るかしら」
花子さんは、ミーハーだった。
私はというと、髪は腰ぐらいの長さで黒髪、前髪は眉のところで切り揃え、服装は生前のセーラー服のままである。
「でも花子さん、凄いですよね」
「何がぁ?」
「未だ人気が衰えない。こうやって何十年もの間、人々の記憶に残っているお化けなんですから」
私がお化けとなってここへ住み始めた五十年前、既に『トイレの花子さん』は、その名を全国へ知らしめていた。
「私なんて、とてもとても」
私は手を顔の前でひらひらさせながら、自嘲気味に笑った。
「そんなこと、ないんじゃなぁい? 緑子さんもやってみれば?」
「桜子です」
「あなたも出来ると思うわよ」
そんなこと、本当に出来るのだろうか。私は考えながら俯いてしまった。なぜなら。
「でも、どうやって人を驚かせればいいのか分からなくて……」
「そんなの、簡単よぉ」
私はその簡単な方法をどうしても教えてもらいたくなって、花子さんのトイレに急いで移動し、真剣な眼差しを向けた。
「どうやるんですか。花子さん、教えてください」
「いいわよぉ」
快く承諾してくれた花子さんは、にっと笑い、得意げに口を開いた。
「いい? 人を驚かせる方法っていうのは……」
「いうのは……」
「こう、ぱぁーっとやればいいのよ」
花子さんは、テキトーだった。