「どうしてそれが分からないんですか。せっかくこんな綺麗な場所を頂いているのに……」
私はクリーム色に包まれたトイレを見渡しながら呟いた。それでもその子は構わず歌い続けた。
「ちょっと、聞いてるんですか? 聞い……聞ぃとんのかワレぇぇ!」
「ぎぇぇぇーっ!」
その子は突然恐怖に顔を引きつらせ、大急ぎでトイレを出て行った。
「お、おい。どうしたんだよ!」
右の洗面台で手を洗っていたもう一人の男の子が、逃げて行く友達の背中に向かって叫んだ。
私は続いて右を向き、その子に詰め寄った。
「あなたもそんな使い方して……。トイレがかわいそうじゃないですか」
その子も私には気づかず、トイレの出口の方を向いている。
「どうしてもっと綺麗に使おうとしないんですか?」
私はびしょびしょの洗面台を眺めながら呟いた。それでもその子は気付かず出口の方を向いていた。
「ちょっと、こっち向いて下さい! こっ……こっち向かんかワレぇぇ!」
「ひえぇぇぇーっ!」
その子も恐怖で顔を歪め、大慌てでトイレを出て行った。
「はっ! わ、私、一体どうしたんでしょう」
「桜子さんて、結構恐い性格なのね」
傍らで一部始終を見守っていた花子さんは、我に返った私を見ながらぼそっと呟いた。
私はと言うと、訳が分からず、ただきょとんとしているだけだった。
「あの子たち、急にどうしたんでしょう」
「あなた、覚えていないの?」
「すみません。なんだか夢中になっていたみたいで」
「桜子さん、あなたの力よ」
「えっ? 私の?」
花子さんは納得したように、私の右肩をぽんと叩いた。
「あなたはお化けとして、その力を発揮したの」
「私が?」
そんな……信じられない。私は耳を疑った。