小説

『アリとキリギリス』山田洋州男(『アリとキリギリス』)

 キリギリスは食べ物をじっと見てから、「ありさん、待って」とアリを呼び止めました。
 アリは面倒臭そうに戻ってきました。
「アリさん。食べ物をありがとう。でも、ぼくはただではもらわないよ。ぼくが死んだらぼくの体を持って行っていいよ。その代りぼくが死ぬまで食べ物を分けてもらいたいんだ」
 アリは、キリギリスの体を見ながら答えました。
「分かりました。ではそうしましょうよう。それではキリギリスさんがいつもいる所まで案内してください」
 キリギリスとアリは、卵とメスのキリギリスのもとへと向かいました。

 メスのキリギリスは驚きました。
「なんで、アリと一緒にいるの。アリはわたしたちを食べるのよ。なんで連れて帰ってきたりするの」
「ちがうんだよ。ちょっと話を聞いてよ。このアリさんは食べ物をくれるっていうんだ。だからここまで連れて来たんだ」
 キリギリスはこれまでの話をメスのキリギリスに聞かせました。それを黙って聞いていたメスのキリギリスは、アリにむかって言いました。
「アリさん、わたしにも食べ物をもってきてくれませんか。わたしが死んだら、わたしを食べてかまいませんから。けれど、この卵たちは食べないでください。わたしたちにとって大事な卵なんです。どうかお願いします」
 メスのキリギリスはアリに頭を下げました。それを見ていたキリギリスも一緒にアリに頭を下げました。
「分かりました。食べ物を二人分持ってくるようにしましょう。それに卵は食べないことを約束します。それではまた明日来ます」
 と言ってアリは帰っていきました。
 キリギリスたちは、アリに分けてもらった食べ物を半分ずつ食べました。それからキリギリスは静かに歌い始めました。メスはじっと聞いていました。

 家に戻ったアリは仲間にキリギリスの事を話しました。アリたちは食べ物のなくなるこの時期に、食べ物となるキリギリスが手に入ることを喜びました。アリたちはキリギリスたちに持っていく食べ物を用意し始めました。

 次の日アリたちはキリギリスのところへ食べ物を持っていきました。キリギリスは同じ場所にいました。アリたちを見つけると立ち上がりましたが、足が少しふらついているようでした。キリギリスたちは、「ありがとう」と言ってアリたちから食べ物をもらって食べ始めました。キリギリスは少し元気が出たのか、歌を歌い始めました。静かでゆっくりとした歌でした。アリたちは「また明日ね」と言って、帰っていきました。
 何日かすると、めっきり寒くなりなりました。そんなある日、アリたちがキリギリスのところへ行くと、キリギリスたちは冷たくなっていました。もう歌うことはありません。
 アリたちは約束通りにキリギリスたちを家に運ぶことにしました。アリたちには久しぶりの大物です。大勢で運びに来たので長い行列になっていました。まるで、キリギリスたちの死を悼んで行列になっているかのようでした。
 アリたちはキリギリスの体をみんなで持ち上げて運びました。二匹たてに並べて運んでいます。その後に何か丸いものを運んでいるアリたちがいます。運んでいる物をよく見ると卵です。あのキリギリスの卵です。約束では食べないことになっていた卵です。
 アリたちは、キリギリスと卵をアリの家の中に入れてしまいました。

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